基調講演

追手門学院大学教授
三川 俊樹 先生
AI時代における産業カウンセラーの進歩と持続的成長
もう1年以上前のことです。ある方との面談の中で、こんな話題になりました。
「先日、就労移行支援事業所で相談をしていたところ、担当者から『そのような相談ならAIにした方がよいのではないですか?』と言われてしまい、返す言葉がありませんでした。どう答えればよかったのでしょうか…」
私は、その対応があまりにも素っ気ないように感じたので、「それなら、『そのAIには本当に愛(ai)がありますか?』と聞き返してみるとよかったかもしれませんね…」と申し上げました。そして、二人で思わず笑い合うことになりました。
それから1年ほどが過ぎ、再びその方とお会いする機会がありました。すると、その方は、「困ったことがあると、ChatGPTを利用していて、とても助かっている」と話されるのです。先日も、気になっていることを次々と尋ねているうちに、3時間があっという間に過ぎてしまったそうです。
「3時間近く、まったく疲れも見せずに対話を続けてくれて、しかも無料です。AIには本当に愛(ai)があるのかもしれませんね…」
そう言われ、再び二人で笑い合いました。
この1年ほどの間にも、AIは私たちの日常や仕事に急速に浸透してきました。その一方で、人々の受け止め方は決して一様ではありません。
2026年6月21日付の朝日新聞に掲載された「読者と記者のbe会議」では、「AIは人間を幸福にすると思いますか?」という問いに対して、回答者2,339人のうち45%が「はい」、55%が「いいえ」と回答したことが紹介されていました。否定的な意見としては、「依存しすぎるリスクがある」「人間の考える力が衰える」「便利さが必ずしも幸せにつながるわけではない」といった懸念が挙げられています。しかしその一方で、肯定的な意見には、「言語の壁を越えやすくなる」「医療の進歩につながる」「煩雑な作業が減る」などの期待が見られました。記事の結びには、「血が通い、人の温もりあるものにひかれる気持ちも消えなさそう。AI時代、使いながらたくましく生きるヒントに気づくのかもしれません」と記されていました。この一文は、AIと人間との関係を考える上で、とても示さに富むものだと感じました。
AI時代において、カウンセラーが担ってきた役割の一部は、今後ますますAIによって代替されていくでしょう。情報提供や問題解決のための助言、記録の整理や分析などは、その代表的な例です。その一方で、クライエントの表情や声の調子、沈黙といった非言語的なメッセージを受け取り、信頼関係を築きながら共感的に理解していく営みは、人だからこそ発揮できる専門性であり続けるのではないでしょうか。
本講演では、AIの進展を「脅威」として捉えるのではなく、その可能性を積極的に活かしながら、カウンセラーならではの価値をどのように高めていくことができるのかを考えます。AIとの共生と協働を通じて、産業カウンセラーがさらなる進歩と持続的成長を実現するための道筋を、皆さまと共に探究したいと思います。
プロフィール
追手門学院大学心理学部教授。専攻は、カウンセリング心理学・学校心理学。1961年大阪府出身。1984年3月大阪大学人間科学部卒業。1986年3月大阪大学人間科学研究科博士前期課程修了(学術修士)。1987年4月追手門学院大学文学部助手。専任講師、助教授を経て、2004年4月人間学部教授、2006年4月心理学部教授、現在に至る。この間に、学生相談室長、キャリア開発部長を兼務したほか、2016年4月から現在まで一貫連携教育研究所所長を兼務している。
平成30年度には文部科学省初等中等教育局「キャリア・パスポート」導入に向けた調査研究協力者会議委員、「心のバリアフリーノート」作成検討会委員(座長)、令和1年9月から厚生労働省「今後の若年者雇用に関する研究会」参集者を務めたほか、令和4年6月から、内閣官房内閣人事局「国家公務員健康増進等施策アドバイザー」を務めている。
学会活動としては、日本キャリア教育学会会長、日本産業カウンセリング学会副会長を務めたほか、現在は日本キャリアデザイン学会理事(関西支部長)、日本キャリア・カウンセリング学会理事(SV委員長)を務めている。
主な著書には、『ストレス克服のためのカウンセリング』(共著、有斐閣)、『ほめて伸ばす!叱って育てる!』(東京書籍)、『キャリア教育』(共著、ミネルヴァ書房)、『産業現場の事例で学ぶ カウンセラーのためのスーパービジョン活用法』(共著、金子書房)などがある。
特別講演

龍谷大学教授
東 豊 先生
システムズアプローチの真髄と未来臨床への挑戦
―公開スーパーバイズから紐解く対人援助の知恵とAIカウンセリングの可能性―
現代の産業心理臨床において、メンタルヘルス不調の多様化や職場環境の複雑化はますます加速しています。日々クライアントと向き合う産業カウンセラーの皆様のなかには、個人へのアプローチだけでは解決の糸口が見出しにくい事例に直面し、行き詰まりを感じている方も多いのではないでしょうか。私はこれまで、問題を個人の内に求めるのではなく、人と人の「関係性」やそこで生じている「悪循環」に着目し、そこに効果的な介入を行う「システムズアプローチ」を実践してきました。本特別講演では、この技法の基礎理論から、ステージ上での生々しい臨床知の提示、さらには最先端のAI技術を用いた未来のカウンセリングの検証まで、3つのプログラムを通して皆様と共にこれからの対人援助のあり方を深く探求したいと思います。
①システムズアプローチの基本講義と質疑応答
前半では、システムズアプローチの基本的な考え方や、職場の対人関係トラブル・不適応事例に応用するためのシステム論的視点について、私から分かりやすく解説します。技法の枠組みを超えて、明日からのカウンセリングに活きる実践的な内容です。講義後には質疑応答の時間も設けますので、日頃の臨床での疑問をぜひ私に直接投げかけてみてください。
②臨床の知恵が躍動する「公開スーパーバイズ(SV)」
本講演の見どころの一つが、ステージ上で行うリアルタイムの公開スーパーバイズです。登壇する産業カウンセラーの方が実際に担当された事例について、事前にまとめた記録をスクリーンに投影していただき、それを基に私がその場でスーパーバイズを行います。実際の面接プロセスで「どこに着目し、どう関係性を動かしていくのか」という、ライブならではの臨床のダイナミズムを会場の皆様と共有します。
③最先端の試み:「AIカウンセラー」の検証と徹底分析
終盤では、未来の臨床を占う試みとして「AIカウンセラーvs人間クライアント」のデモ検証を行います。用意したクライアント役の相談に対し、AIがどのように応答するかをスクリーンに映し出します(※システムリスクを考慮し、事前に用意した応答プロセスを投影する場合もあります)。このAIの回答や見立てに対し、プロの臨床家の視点から私が鋭く分析・解説を加えます。AIの可能性と限界を浮き彫りにすることで、逆に「人間にしかできない本物のカウンセリングの本質」とは何かを逆照射する、大変刺激的な企画になるはずです。
本講演は、本技法を初めて学ぶ方はもちろん、中堅・ベテランの産業カウンセラーにとっても、ご自身の臨床スタイルをアップデートする絶好の機会となるでしょう。伝統的な心理療法の知恵と最先端テクノロジーが交錯する必見のステージです。会場で皆様とお会いできることを、心より楽しみにしております。
プロフィール
1956年滋賀県生まれ 関西学院大学文学部心理学科卒
医学博士(鳥取大学)、臨床心理士、公認心理師
九州大学心療内科、鳥取大大学精神神経科などを経て、現在、龍谷大学心理学部教授
専門はシステムズアプローチ(特に家族療法、夫婦療法)
著書:「新版 セラピスト入門」「新版 セラピストの技法」「リフレーミングの秘訣」(以上日本評論社)、「動画でわかる家族面接のコツ」(遠見書房)など